野良猫の糞尿被害での裁判結果がありましたので紹介します。
被告が野良猫に餌を与えていたために、原告の庭に野良猫が侵入し、糞尿により庭が汚され睡眠障害を伴う神経症を発症し、損害賠償182万円の支払いを求めた裁判をおこし、野良猫に餌やりをした人に対して55万8600円の損害賠償請求が成立したものになります。
主 文
1.被告は,原告に対し,55万8100円及びこれに対する平成26年7月21日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2.原告のその余の請求を棄却する。
3.訴訟費用は,これを3分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
4.この判決は第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,159万8600円及びこれに対する平成26年7月21日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
第 2 事案の概要等
1 事案の概要
本件は,肩書住所地に居住する原告が,隣接地に居住する被告に対し,被告が被告宅又はその庭において野良猫に寝床や餌を用意するなどの飼育ないし餌付けを行って原告宅を含む周辺に猫を居着かせ,行政機関の指導にも従わずに飼育ないし餌付けを継続し,他人の土地,建物を損傷し,又は糞尿等で汚損することのないよう家庭動物の飼育等を行うべき義務に違反して,原告宅の庭を猫の糞尿等により汚損した不法行為により,原告に159万8600円の損害(①ネット設置費用8100円,②砂利洗浄・植木植え替え費用45万0500円,③精神的苦痛による慰謝料100万円,④弁護士費用14万円)を与えたとして,不法行為による損害賠償請求権に基づき159万8600円及びこれに対する不法行為後の日である平成26年7月21日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2前提事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠並びに弁論の全趣旨によって容易に認定することができる事実)
(1) 当事者等
ア.原告
原告は,平成14年頃に肩書住所地(福岡県糸島市ab丁目c番d号)に新築した住居に居住している者である(甲1,弁論の全趣旨)。
イ.被告等被告は,平成11年に当時の夫とともに肩書住所地(福岡県糸島市ab丁目c番e号)の土地・建物を購入して共有し,平成16年には離婚に伴う財産分与により上記土地・建物を単独で所有して,以降,現在まで同所に単身で居住し,福岡県内の高校において教職を勤めている者である(甲2,乙3,被告本人,弁論の全趣旨)。また,訴外Aは被告の母,訴外Bは被告の弟である。
ウ.原告宅と被告宅の位置関係
原告宅と被告宅の位置関係は,別紙「位置関係図」のとおりである。(2)被告による猫の飼育,原告宅における猫の目撃状況及び行政機関による指導状況等についてア被告は,平成22年頃,被告宅において猫(雄のキジ猫1匹。以下「本件飼い猫」という。)の飼育を始め(乙3,被告本人),なお,平成23年9月8日,原告宅の庭(ガーデンテラス)においてキジ猫が目撃されている(甲4)。
イ被告は,平成25年5月頃,被告宅の庭に4匹の猫(親猫1匹,子猫3匹。以下「本件野良猫」という。)がいるのを発見し,少なくとも2~3回にわたって,これらの猫に餌を与えた(乙3,被告本人)。本件野良猫は,少なくとも平成25年6月から10月にかけて,原告宅の庭で目撃されている(甲5~8[甲6と8は枝番を含む])。
ウ原告は,平成25年6月20日,糸島市役所に架電して,概ね,「被告宅で野良猫が子供を産み,親猫・子猫ともに近隣住民の家に侵入し,糞害で困っている」との苦情を申し入れた(甲12,原告本人)。
糸島市役所職員は,同日,福岡県糸島保険福祉事務所(糸島保健所)職員とともに,被告宅を訪問し,玄関先に餌入れ様のものを確認したものの置き餌や猫の確認をすることができず,さらに,同月24日,改めて被告宅を訪問し,子猫がいることを確認したうえ,被告が不在であったために連絡票を投函した(甲12,13)。
エ.Bは,平成25年7月1日,被告の依頼を受けて糸島保健所に架電し,同保健所職員による指導が行われた(以下「行政指導1」という。なお,同日における指導の有無及び内容については当事者間に争いがあるところ,この点は後に認定する。)。
オ.被告は,その後,少なくとも平成25年8月頃,10月頃及び12月頃に,本件野良猫に餌を与えており(乙3,被告本人),原告は,同年8月15日,糸島市役所に架電し,概ね,「被告が猫の屋外飼育を止めておらず,猫が庭に入ってきて糞をする」との苦情を申し入れ,さらに,同年10月15日には,ab丁目自治会区長名で,糸島市役所に対し,被告への指導を要望する文書(甲14)が提出された(甲12,13)。
カ.糸島市役所は,平成25年11月13日,被告に対し,市役所への来所を求める文書を送付し,同月15日,被告の依頼を受けて同市役所を来訪したAに対して同市役所職員及び糸島保健所職員から指導が行われた(以下「行政指導2」という。なお,行政指導1と同じく,指導内容等について当事者間に争いがあるところ,後に認定する。)。
キ.なお,被告宅の玄関先においては,平成25年12月9日及び13日,置き餌及び猫の寝床様の段ボール・篭が置かれており,同月13日には,上記寝床に猫がいることが確認されている(甲9[枝番を含む])。
(3)爾後の経過等
ア.原告は,平成25年12月13日,代理人を通じ,被告に対し,猫の屋外飼育の中止や,損害賠償を求める旨を通知し(甲17),被告がその希望には添えない旨を回答したところ(甲18),平成26年7月4日,本件訴訟を提起した。
イ.なお,被告は,原告から上記アの通知を受領した平成26年1月1日以降は,本件野良猫に餌を与えておらず(乙3,弁論の全趣旨),原告宅近辺においては,平成26年3月初旬以降,本件野良猫は目撃されていない(甲22,原告本人,弁論の全趣旨)。
第3当事者の主張
1.原告の主張
(1)被告の不法行為及び因果関係
ア.被告は,猫等の家庭動物を飼育するにあたって,近隣の土地,建物等を糞尿等で汚損することがないように飼養する義務があったところ,遅くとも平成25年春頃から,本件野良猫に餌を与えて屋外飼育をし,去勢・不妊手術などの繁殖防止措置をとらなかったうえ,度重なる行政指導に対しても上記屋外飼育を中止せず,そのために原告宅の庭に本件野良猫又は本件飼い猫が侵入し,その糞尿により原告宅の庭が汚損された。
イ.上記アの被告の行為は,故意又は過失により原告の権利を違法に侵害する不法行為に該当する。
(2)原告の損害
上記(1)の被告の不法行為により,原告は以下のとおり,合計159万8600円の損害を被った。
ア.ネット設置費用8100円
猫の侵入を防止するために,原告宅に設置したネットの設置費用
イ.砂利敷替え・植木植え替え費用45万0500円本件野良猫又は本件飼い猫の糞尿により,原告宅の庭の砂利が汚損され,植木が枯れたことにより,必要となった砂利の敷替え及び植木の植え替え費用
ウ.慰謝料100万円
本件野良猫又は本件飼い猫の糞尿により,原告宅の庭が汚損され,悪臭等により不衛生な状態が生じ,庭の手入れなどの趣味が妨害されたほか,庭に洗濯物を干せない状況を強いられた精神的苦痛に対する慰謝料
エ.弁護士費用14万円
(3)結論
よって,原告は,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,159万8600円及びこれに対する不法行為後の日である平成26年7月21日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める。
2被告の主張
(1)原告の主張(1)について
ア.原告の主張(1)は,被告が本件野良猫に数回にわたって餌を与えたことがあるとの限度において認め,その余は否認し,争う。
イ.被告は,本件野良猫のうち3匹(親猫1匹,子猫2匹)についてのみ,平成25年5月に2~3回,平成25年8月,10月及び12月に捕獲のために数回だけ餌やりを行っただけである。このように,被告が本件野良猫に対して行った餌やりは,専ら捕獲目的での僅かな回数のものであって,継続的に行ったものではなく,住民としての通常の行為の範疇であるから,被告に過失はなく,不法行為は成立しない。
ウ.上記イのとおり,被告が行った餌やりは僅かな回数であるから,その餌やりと原告宅に本件野良猫が侵入したこととの間に因果関係はなく,また,原告宅の庭に生じているという糞尿被害が本件野良猫のうち被告が餌やりをした3匹によるものかどうかも不明であるから,損害との間の因果関係も存在しない。
(2)原告の主張(2)について
ア.原告の主張(2)は,次のとおり,否認し,争う。
イ.ネット設置費用は,具体的な必要性が認められない。
ウ.砂利敷替え費用は,原告の具体的な被害及び被害範囲が不明であるためその必要性が認められない。また,植木植え替え費用は,植木が枯れて植え替えられたかどうか,枯れたとしてそれが猫の糞尿被害によるものか不明であって,因果関係が認められない。
エ.精神的苦痛による慰謝料は,具体的な被害内容が不明であるうえ,金額も多額にすぎる。
第4当裁判所の判断
1本件野良猫に対する餌やりの態様について
(1)被告は,平成25年5月頃以降,本件野良猫に餌やりをしたことは認めつつ,その回数は平成25年5月に2~3回,平成25年8月及び10月に数回と僅かであるうえに,平成25年8月,10月及び12月の餌やりは本件野良猫を捕獲するためであったとして,被告には過失がなく,また,原告宅に本件野良猫が侵入したことや原告宅の糞尿被害と被告の餌やりとの間に因果関係がないと主張し,その旨を供述する。
(2)しかし,そもそも,本件野良猫に餌を与えることで,どのように本件野良猫を捕獲しようとしたのか全く明らかではないうえに,被告宅の玄関先には,平成25年12月9日及び同月13日の両日において,餌や寝床とみられる段ボール・篭が置かれており(前提事実(2)キ。寝床とみられる段ボール・篭が複数置かれていることから,これが本件飼い猫用のものでないことは容易に窺われる。なお,甲9[枝番を含む]の各写真が上記日付の年月日に撮影されたことについて,本件の証拠上特段の疑義はない。),上記両日は平日(月曜日と金曜日)であって高校教諭である被告は在宅していなかったと考えられ,要するに,被告は,被告宅玄関前に餌を置いて出勤していたと認められるのであって,この餌やりが本件野良猫を捕獲する目的でされたものとはおよそ考えられず,被告の主張及び供述は,まず,この点において信用することができない。
(3)また,原告は,平成25年春頃から平成26年2月頃まで,本件野良猫が原告宅の庭に侵入していた旨を主張,供述するところ,①少なくとも平成25年6月から10月までの間は,明らかに本件野良猫が原告の庭に侵入していること(前提事実(2)イ),②上記(2)のとおり,被告は平成25年12月に本件野良猫への餌やりを行っていたと認められ,少なくともこの頃は,本件野良猫が原告宅・被告宅周辺に居着いていたと考えられることなどを踏まえると,原告の上記供述の信用性に疑義を差し挟む余地はなく,同供述によれば,本件野良猫は,平成25年春頃から平成26年2月頃までの間,原告宅・被告宅周辺に居着いていたと認められる。
そして,一般に,野良猫が同一の場所に居着くのは,その場所に生存に適した環境,より具体的には餌に困らない環境が整っているからであると考えられ,被告が行う餌やりのほかに本件野良猫が原告宅・被告宅周辺に居着く原因があったとは窺われないことによれば,被告は,その期間中,継続的に本件野良猫への餌やりを行っていたと推測することができ,このことは,①被告が本件野良猫に餌やりを始めた平成25年5月頃以前において本件野良猫その他の野良猫が原告宅・被告宅周辺に居着いていたとは窺われないこと,②被告が平成26年1月に本件野良猫に対する餌やりを中止したところ,その後,同年3月初旬頃には本件野良猫が目撃されなくなっていることによっても裏付けられているというべきである。
(4)さらに,被告は,糸島保健所からの連絡票の投函又は糸島市役所からの呼び出しを受けて,B又はAを通じ,行政指導1及び同2を受けているところ,①行政指導1(平成25年7月1日)に際して,Bは,室外で成猫1頭(メス),子猫3頭(性別不明)につき,敷地内に迷い込んできたために餌を与えだしたなどと回答し,保健所職員から不妊去勢の実施と室内飼育の徹底を指導されているにもかかわらず,その時点において本件野良猫に餌を与えていないなどの弁明をしておらず,また,②行政指導2(平成25年11月15日)に際して,Aは,本件野良猫について,最初は子猫を連れてきてかわいそうになって餌を与えてしまい,それが居着いてしまったと説明し,保健所職員から,猫を捕獲し,今後一切,野良猫に餌を与えない点において本件野良猫に餌を与えていないなどの弁明はしていないのであって,これらは,各行政指導の時点において,被告が本件野良猫への餌やりを継続していたことを裏付けるものといえる。
これに対し,被告は,上記①②の各行政指導の経過及び内容を争うとともに,B及びAは,被告から具体的な事情を知らされないままに糸島保健所に架電又は往訪したにすぎないと主張し,B及びAはその旨を証言する。しかし,B及びAの当時の記憶は極めて曖昧であるうえに,上記①②の各行政指導の内容は,苦情処理簿(甲13)に明確に記載されており,糸島保健所職員において殊更に事実に反する記載をする理由は全く見出せず猫3頭(性別不明)・・敷地内に迷い込んで来たために餌を与えだした」など,実際に聴き取りをしたうえでなければ記載できないものであるところ,苦情処理簿の記載内容を争う被告の上記主張並びにB及びAの証言は採用の限りではない。また,B及びAが被告から具体的な事情を知らされていなかったとの主張及び証言についても,事情を知らないままに糸島保健所又は糸島市役所に架電又は往訪したということ自体,極めて不自然であるうえに,B及びAは,各行政指導の際に,室外で成猫1頭(メス),子猫3頭(性別不明)につき,敷地内に迷い込んできたために餌を与えだした(行政指導1・B),最初は子猫を連れてきてかわいそうになって餌を与えてしまい,それが居着いてしまった(行政指導2・A)など,被告から事情を聴いたうえでなければできないはずの説明等をしているのであるから,同じく採用の限りではない。
(5)以上によれば,被告は,平成25年5月頃から少なくとも同年12月頃まで,本件野良猫に対し,継続的に餌やりをしていたと認めることができ,これに反する被告の主張及び供述は採用することができない。
2被告の行為(餌やり)の不法行為該当性及び糞尿被害との因果関係について(1)上記1のとおり,被告は,平成25年5月頃から,少なくとも同年12月頃まで,本件野良猫に対し,継続的に餌やりをしていたと認められる。
この被告の行動は,本件野良猫を愛護する思いから出たものと窺われ,そのような思いや行動は,それ自体が直ちに非難されるべきものではなく,可能な限り尊重されるべきとはいえるものの,他方で,相隣関係においては相互に生活の平穏その他の権利利益を侵害しないよう配慮することが求められるのであって,餌やりによって野良猫が居着いた場合,その野良猫が糞尿等により近隣に迷惑や不快感その他の権利利益の侵害をもたらすことがある以上,そのような迷惑が生じることがないよう配慮することは当然に求められるというべきである。
(2)そして,被告が本件野良猫への餌やりを開始した当初において,原告宅に糞尿被害が生じることを具体的に認識していたとまでは認められないものの,餌やりをすれば本件野良猫が居着くことになることや,その結果として近隣に迷惑を及ぼすことは十分に認識し得たはずであるうえに,遅くとも,原告が市役所に苦情を申し入れ,糸島保健所から連絡票が投函された時点(前提事実(2)ウ),あるいは,Bを通じて行政指導1を受けた時点(同エ)においては,明確にこれを認識していたと認められ,少なくともその時点以降においては,被告は,原告を含む近隣住民に配慮し,糞尿被害等を生じさせることがないよう,餌やりを中止し,あるいは,本件野良猫について屋内飼育を行うなどの措置をとるべきであったということができる。
(3)然るに,上記1で認定したとおり,被告は,その時点以降も本件野良猫に対する餌やりを継続していたと認められ,また,原告宅の庭においては実際に糞尿被害が発生しており(甲10[枝番を含む],24の1),本件の証拠上,本件野良猫以外にこの糞尿被害を生じさせた動物等が存在したなどの事情は全く窺われないところ,この糞尿被害は本件野良猫によって発生したと認められるのであって,被告の行為は,原告その他の近隣住民への配慮を怠り,本件野良猫の糞尿等により原告の権利利益を侵害した不法行為というべきである。
なお,被告は,被告が餌やりをしたことと,本件野良猫が原告宅に侵入したこと(原告宅・被告宅周辺に本件野良猫が居着いたこと)との間に因果関係がない旨を主張するが,同主張は被告の餌やりの回数が僅かであったことを前提としたものであって,その前提が欠けることは上記1で判示したとおりであり,また,野良猫への餌やりは野良猫の生活に適した環境を整え,居着かせることにつながる行為であり,被告が餌やりをしたことのほかに本件野良猫が原告宅・被告宅周辺に居着いた原因が窺われないことは上記1(3)で判示したとおりであって,被告の上記主張は採用できない。
3原告の損害について
(1)ネット設置費用
ア.証拠(甲13,26[枝番を含む])によれば,原告は,被告宅側からの本件野良猫の侵入を防ぐために,原告宅と被告宅との境界付近に防護ネットを設置したことが認められる。
イ.これは本件野良猫の侵入防止に一応効果がある措置ということができ,また,被告の不法行為がなければ不要な措置であったといえるから,その設置にかかる費用8100円(甲27[枝番を含む])を被告の不法行為と相当因果関係のある原告の損害と認める。
(2)砂利敷替え費用
ア.原告は,平成26年5月頃,原告宅の庭の砂利を敷き替える工事を行ったと認められ(甲11[枝番を含む],28,30,原告本人),同工事を施工した造園業者及び原告は,大部分の砂利が糞にまみれていたため,入れ替えを行わざるを得なかった旨陳述ないし供述する(甲28,30,原告本人)。
イ.確かに,原告宅の庭には,本件野良猫のものとみられる糞が残置されたことは認められ,また,本件野良猫が原告宅・被告宅周辺に居着いていた期間が長いことに照らすと,糞尿被害は相応な程度であったとは推測することができる。しかし,原告は糞を発見する度にこれを処理していたはずであるうえに,各写真(甲10[枝番を含む],24の1)をみても,砂利の大部分が糞にまみれている状況は確認できないのであって,本件において,砂利の敷き替えを行う必要性,相当性があったとまで認めることができず,ただし,一定程度の洗浄,入れ替えの必要性があったとは考えられるところ,この点は慰謝料に含めて考慮することとして,砂利の敷き替え費用は原告の損害と認めない。
(3)植木植え替え費用
原告は,平成26年5月頃,原告宅の植木の植え替えを行ったと認められる(甲11[枝番を含む],28,30,原告本人)ものの,本件野良猫の糞尿により植木が枯れたことを認めるに足りる証拠はなく,その費用が原告の損害であるということはできない。
(4)慰謝料
既に判示したとおり,原告宅には被告の不法行為により本件野良猫による糞尿被害が発生したと認められ,①猫の糞尿は相当程度の悪臭を発し,生活環境を害するものといえるうえに,糞尿被害の期間は相当に長期間にわたっていること,②被告は,遅くとも行政指導1を受けた平成25年7月頃には,本件野良猫による糞尿被害その他の近隣への迷惑が発生していることを認識していたにもかかわらず,その後,長期間にわたり適切な措置を講じていなかったと認められること,③上記(2)のとおり,原告宅の庭の砂利について一定程度の洗浄,入れ替えの必要性が生じたと考えられることなどに鑑みると,糞尿被害による原告の精神的苦痛は相当に大きいものということができ,これを慰謝するために相当な金額は50万円を下らないというべきである。
したがって,精神的苦痛に対する慰謝料として,50万円を原告の損害と認める。
(5)弁護士費用
弁護士費用相当額の損害として5万円を認めるのが相当である。
(6)損害額合計
上記(1)~(5)によれば,被告の不法行為による原告の損害は,合計55万8100円である。
4結論
以上によれば,原告は,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,55万8100円及びこれに対する不法行為後の日である平成26年7月21日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めることができ,原告の請求はこの限度で理由があるから一部認容し,その余は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条本文,仮執行宣言につき同法259条1項を適用して,主文のとおり判決する。
なお,仮執行を免脱する宣言は,これをすることが相当であるとはいえないから,その旨の宣言はしないこととする。
福岡地方裁判所第6民事部裁判官溝口優
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